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「新たな一歩」としての『劇場版 ポールプリンセス!!』感想

こんにちは。

11/23(木)に公開した『劇場版 ポールプリンセス!!』。元の知名度は高くありませんでしたが、プリティーシリーズファンや声優陣のファン、アンテナの高いアニメファンを中心にじわじわとその魅力が人々に広まってきているように感じます。とは言え、もっともっと広がって欲しいところですね。

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さて、本作は劇場版からも観ることができる作りになっているため、前日譚となるWEB版は飛ばしたりさらっと一周したのみで劇場版を観た人も多いのではないでしょうか。もちろんそれでも楽しめるのですが、特にもう劇場版を観た方には、改めてWEBドラマ(前日譚となるアニメのこと)や、特にWEB版のポールダンスショームービーをじっくり観てもらうことをオススメします。それにより、より劇場版を楽しむことができるはずだからです。

そんな思いから、今回はWEB版からのファンとして『劇場版 ポールプリンセス!!』の感想を、WEB版の内容を念頭に置きつつ書いて行きます。『劇場版 ポールプリンセス!!』は内容を知っていても楽しめる作品ではありますが(核心は避けつつも)劇場版の内容自体にもある程度触れるため、ご注意ください。WEB版単体の感想は以前に記事を書いたので、そちらも参考にしてみてください。

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WEB版の特徴

改めてWEB版の『ポールプリンセス!!』の構成を確認しておきましょう。WEB版は、全1時間ほどのWEBドラマと、主要キャラ全員分のポールダンスショームービー、自己紹介動画からなります。このうちショームービーはWEBドラマにも一部登場するため、何となくWEBドラマを一通り観ておけば良さそうにも見えます。

しかし『ポールプリンセス!!』という作品の物語は、ドラマパートだけでは完結していません。劇場版でもWEB版でも、ポールダンスショーを行う場面はドラマパートと同等以上に重要となっています。実は『ポールプリンセス!!』の当初の構想ではWEBアニメは存在せず、ショームービーだけが公開される予定だったんですね。そのこともあってか、WEB版のショームービーは、衣装、歌詞、曲調、踊り、背景まで含めて、様々な形でそのキャラクターの軸(ポール)を紹介するような内容になっています。

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劇場版の特徴

では、WEB版と比較した劇場版の特徴を見て行きましょう。今回は「ポールを通じた他者との関わり」と「新しい自分」の二つを中心に取り上げてみます。細かく言えば、ドラマパートが3DCGから手描きになったことによる何気ないシーンの嬉しさだったり、劇場で観ることによる大画面や音響だったり、更にクオリティが上がった3DCGだったり、応援上映による一体感だったりと色々あるのですが……

ポールを通じた他者との関わり

劇場版では、主にギャラクシープリンセス内に閉じていたストーリーが外に広がったり、ポールダンスショーにダブルスが加わったりと、他者との関わりが増えて行きます。あるキャラクターが他者とどう関わっているかをより知るには、まずはそのキャラクター個人についてよく知ることが最適というわけで、WEB版のポールダンスショームービーを参照しつつ見て行きましょう。

ダブルス

劇場版での大きな追加要素としてまず目に付くのが「ダブルス」です。これは明確にWEB版に無い要素です。ポールダンスを少し観たことはある人も多くの場合はシングルスであるという意味でも、ダブルスのポールダンス映像はインパクトがあります。観る側にとっても発展的な内容ですが、人とポールに加え人と人の触れ合いを3DCGで描く必要があるため、作り手にとっては相当大変だったことが推察できます*1

ダブルスのポールダンスでは何が変わるかと言えば、重力に逆らうために(唯一の支えだった)ポールだけでなく人にも頼ることができるということです。今回ギャラクシープリンセスのダブルスを務めるのは南曜スバルと西条リリアですが、スバルは過去の出来事から大技に挑むことに躊躇してしまう、という物語になっています。

そんなスバルのWEB版のショームービーを観てみましょう。基本的には以前の記事にも書いた通りで、全身で時計の針を表現することで過ぎていった時間の喪失感を表現したり、ポールを世界の境に見立てて「ポールダンスを始めた世界」に飛び込んだり、ポールを自分の軸として見立てたり。

注目したいのは、閉ざされた暗い空は中盤の落雷によって青空となる一方、目を逸らすためのフードはステージ上では最後まで被ったままであること。ポールダンスという新たな世界を見つけた一方で、スバルの視界はまだ狭く、隣から表情を窺い知ることはできないままです。つまり体操をやめた事情を周囲には知らせていないままとも解釈できるかもしれません*2。対照的に劇場版のダブルスでは、(同じ被り物でも)視界がすっきりして周りの見える帽子を被っているのが印象的です。

終盤の歌詞「もう私は大丈夫 またいつか待ち受ける決断も無限°の前を向けば答えがある」は、次に決断すべき時が来てもポールを軸として回れば答えが見つかると解釈してみると、ポールの向こう側にいるもう一人(リリア)と話すことで答えを見つける結末になったのは興味深いです。余談ですが、劇場版での公園での和解のシーンで、二人が手を合わせる位置にまるでポールのようにブランコの柱が配置されていましたね。

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リリアの方も観てみましょう。全体が応援ソングになっていて、イントロの「ヨロシク!上等Smile Together」から始まるように、スバルとは対照的に他者を意識した歌詞になっていますね。引っ込み事案なヒナノを応援したり、スバルが実力があるのに挑戦しないと悩むのも「キミの輝きはねっ So私が知ってるよ」という歌詞からリリアの基本姿勢であることがわかります。

「完全燃焼オーライ!ただ一緒に一緒に歌えばそれだけでカーニバル」も劇場版の二人の曲「Burning Heart」を見通しているような歌詞に感じますね。

「You may know to be loved(夢の扉)」と同時に扉を開いて過去の思い出を振り返るシーンも印象的。劇場版ではなくWEB版の話としては、ヒナノのショーが「きっと大丈夫 夢のドアを叩くマイパッション」とアンサーの歌詞になっているのもいいですね。夜空に星が浮かぶヒナノと笑顔の浮かぶリリアの対比も面白い。さらに余談として、ヒナノのクラップ主体の劇場版新曲もこの「夢のドアを叩く」からの着想かもしれません。

劇場版の作中で言われているヤンキー的な言葉遣いもこの歌詞の中に多く見られます。さらに衣装はバニーとアラビアンを混ぜていて*3、要素をだいぶ盛っているのにまとまっているのがリリアの凄いところ。

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リリアとスバルのダブルスは、片方が歌い、片方がポールで踊る形で始まります。これはユカリとサナのダブルスとの差別化であると同時に、これまでソロで歌い踊っていた二人が、これからダブルスとして一緒に踊るという流れを表現しているようにも取れますね。

リリアとスバルの組は発表当時はやや意外でしたが、スバルが視界を広げて立ち直る支えとなる役割はリリアにピッタリで、今となれば納得です。みんなを支える、まるでギャラクシープリンセスにおけるポールのような存在のリリアですが、逆に次にソロを歌うとしたらどういう曲になるのかが気になります。

ダブルスはどんどん他の組合せも観てみたいです。ギャラクシープリンセスとエルダンジュの越境(ヒナノとユカリ、サナとミオ)や、幼馴染の組(ヒナノとリリア、ユカリとノア)、あえて王道を外しても面白そう。

チーム外の他者との関わり

他にも、今回はライバルチームであるエルダンジュの出場する大会に主人公チームのギャラクシープリンセスも参加するということで、過去からの因縁だったり、意識する相手とポールダンスを通じて相まみえることとなります。劇場版全体の軸としては、主人公星北ヒナノ絶対王者である御子白ユカリの関わりですね。

ここでは、ユカリのショームービーを観てみましょう。歌詞からもユカリは、相手に関わらず(ポールのように)揺るがず高みに至ることと、それを他者に示す(見せつける)ことに拘っていることがわかります。この意志が劇場版のショーのラストシーンに繋がるわけですね。バレエ出身者らしい美しくしなやかな振付も、他者に示すことに向いています。

一方で「いつでも勝者は ひとりだけ」「私以外になれない」といった歌詞、飛び立つ一羽の鳥は、先ほどと近い意味を持ちつつ劇場版を観た後だと少し寂しげにも聴こえてきますね。これも余談ですが、ラストシーンのヒナノとユカリの間にも、前述のように二人の間にポールに見えるもの(ドアの枠?)が配置されていました。

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当初ギャラクシープリンセスがエルダンジュを意識して練習に励んだように、チーム外との他者とは競う要素が押し出されます。しかし、本番の演技でやるべきことは、他者ではなく自分たちの軸(ポール)に向き合い、自分たちらしいショーをすること。交互にではなく、エルダンジュの後でギャラクシープリンセスがショーを行うのも、そういう意味合いではないでしょうか。エルダンジュの圧巻で迫力のある路線に完全には乗らないギャラクシープリンセスの面々の多彩なショーは、ポールダンスの幅の広さと自分らしさの肯定を感じました。

チーム内での関わり

また、チーム内での関わりはWEB版からあったものの、今回よりピックアップされた要素ですね。チームとして大会に出るからこそ、足を引っ張らないようにとより高みを、次節で語る「新しい自分」を目指す姿が描かれました。

劇場版のヒナノのショーでは、チームのみんなと、ヒナノにとってのトラウマがそれぞれステージの片側ずつに配置され、チームの内と外とが描写されていました。その一方から一方に移れる、自分にとっての大きな壁があってもいつでも応援してくれる人の元に戻って来られることを回転によって表現するのが非常に面白かったです。

新しい自分

劇場版のもう一つの特徴は、前回を超える新たな自分を目指すことです。ギャラクシープリンセスは王者エルダンジュに勝つために自分を超えなくてはなりませんし、エルダンジュもただ勝つのではなく前回を超えることを自他ともに求めます。「どうやって前回を超えたか?」を知るには「これまでどうだったのか」を知る必要があり、そのこれまでを象徴するのがWEB版のショームービーというわけです。ギャラクシープリンセスはポールダンスを始めたことで始める前の自分と変わった部分もある一方、エルダンジュはショームービーがこれまでのスタンダードであり、観客が持っている(覆すべき)パブリックイメージです。バックグラウンドをそれほど知らない分、視聴者から観たエルダンジュは観客から観たエルダンジュと近いかもしれません。

エルダンジュ

エルダンジュでソロショーをするのはユカリと蒼唯ノア。まずはノアのショーについて。燃え上がる刀を振り回したり、服装が変わったりとインパクトのあるポールダンスショーですが、静かに見えるWEB版のショームービーにその片鱗が見えており、延長線上にあることがわかります。

ノアは日本舞踊の家元の生まれなので、イントロの「敷かれた ひとすじの道」とはそれを継ぐことであり、そうすべきか迷っていることが察せます。タイトルの「眩暈の波紋」の眩暈とは「眩暈 起こすほどのFantastic」と歌っているユカリによって起こった感情でしょう。

劇場版では刀を取り出したように、このショーでも扇子を取り出しています。ここで注目したいのは、刀も扇子も取り出したり仕舞ったりしていること。単純に小道具を使う場面と使わない場面があるというだけでなく、ポールダンスの道に進みたい感情が、ノアの中で出たり収まったりしていると解釈することもできます。扇子を上に高く投げるのは、その感情が大きく高ぶった瞬間かもしれません。そして劇場版では、その刀が燃え上がり、服を断ち切っていきます。感情が燃え上がり、しがらみを断ち切りたくなっていると取ることができます。目が青から赤に変わるのは、日本舞踊をしていた頃の優しい自分と、ポールダンスに惹かれた激しい心の今の自分への変化。とすると、最後に刀が青と赤の炎を纏い、青と赤のオッドアイとなった姿は、その両方を併せ持つ新たな自分の提示だと捉えられますね。

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ドラマパートで直接日本舞踊の家元について語られたりはしていないノアですが、ショームービーにはもっと色々な情報が詰まっていそうです。今後の掘り下げも楽しみですね。

もう一方のソロショー担当であるユカリについても少しだけ。ユカリにとっての新たな自分とは、過去の4連覇してきた自分自身。そんな「自分自身との対峙」を『ポールプリンセス!!』の原則であるダンスは現実で可能な動きのみを守った上で実現する発想には驚かされました。

ギャラクシープリンセス

ギャラクシープリンセスでソロショーをするのはヒナノと東坂ミオ。ここではミオのショーについて見て行きます。魔法少女のキャラクターに憧れてコスプレをしているミオ。WEB版では魔法のステッキを持ち、世界に魔法を掛けるような曲を歌っています。

歌詞としては衣装を力にしていることや、衣装を纏うのは本当の自分をさらけ出すためといった部分が印象的。劇場版でも「この衣装だけで勝てる気がするよ!」や「衣装を着たミオは無敵だよ」と言った、作った衣装を周囲や自分の力にする姿が見られました。

WEB版のショームービーの注目点としては、ミオが最後まで背後に出現する魔法少女に衣装に着替えなかったことです。ミオにとっての推しの衣装ですが、この時点ではその衣装に直接変身することはありませんでした。劇場版では魔法少女からモチーフを変え、マーメイドになったミオ。衣装や背景を含めて世界観を作り込んで水中にいるように思わせたり、衣装に変身ギミックを加えることで、まるで魔法を掛けたかのような演出を生み出す姿。魔法少女を直接扱わずとも、より魔法少女に近づいたとも言えます。

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おわりに

というわけで『劇場版 ポールプリンセス!!』がWEB版から如何に「新たな一歩」を踏み出したかについて書いてきました。『劇場版 ポールプリンセス!!』は初見でも楽しめる作品ですが、積み重ねを知るとより楽しめると認識してもらえたら嬉しいです。今回はヒナノのショーについてはあまり触れませんでしたが、言うまでも無くヒナノの劇場版のショーもWEBドラマ版の延長線上にあるものです。

本記事は元々劇場版について話すために書き始めましたが、ベースとなるWEB版も濃密なためかWEB版の話ばかりしてしまいました。とはいえ、これでWEB版の全員分のポールダンスショームービーに少しずつですが言及できたので、良かったです。

*1:乙部善弘氏がポルプリラジオ等で話されていました

*2:ステージにいないときはフードを下ろしていますが……まあステージの上では弱さを見せていないとは言える?

*3:トマリ氏の発案だそうです https://twitter.com/polpri_staff/status/1667094181268045825