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感想を置く場にしたい

2024年冬アニメ 感想

2024年冬アニメの感想を書いていきます。 完結した作品のみで、特に気に入った作品から順に並べています。

余談ですが、今期は作品を観終えたタイミングでその時点での感想を日記に書き出していて、 この記事もそれをベースとして再構成したものになっています。 感想はすぐに書いた方がいい、という気付きを得ました。

ゆびさきと恋々

yubisaki-pr.com

漫画原作。聴覚障害を持つ主人公「雪」の恋愛を描く物語。

1話でグッと心を掴んで最終話まで駆け抜ける、素晴らしい作品でした。 原作漫画の方は未読なのですが、アニメとしての本作は、音と動きが主となる媒体の特徴を活かし切った作品だったように感じました。

聴覚障害を題材とはしている本作ですが実際に扱っている範囲はもっと広く、自分の思いを誰かに伝えること、誰かから受け取ること、そういった(端的に言えばコミュニケーションの)話をしていたように感じます。 1話のサブタイトルが「雪の世界」であるように、視聴者は序盤から音が聞こえない雪から見える世界を知っていくことになります。 音が聞こえなくても、口の動きを読み取ったり、文字でメッセージを送ったり、手話を使ったりすることで情報をやり取りできる。 普段さほど意識はしないですが、口の動きという視覚情報にはそれだけの情報量があるんだなと感じます。 以前書いた記事では、ED中次回予告もそういった「雪の世界」を知るのに貢献しているのでは、と述べたりもしました。

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印象的だったことの一つは、手話の指の動き(まさに、ゆびさき)から、形の意味以上の感情が読み取れること。 同じように、声を出して話すときもその声には感情が載っていて、聴くことでそれを読み取ることができます。 雪は人が何を話しているかは口の動きなどで読み取れますが、どんな声で(高さだったり、柔らかさだったり)話しているかは他人に教えてもらうしかなく、そこが作中で重要な場面にもなっている。 音が聞こえないと後ろから声を掛けても気付かなかったり、見ていないと当然手話は通じない(逆に、手話をしている間、相手は見てくれる)といった描写もあり、そういったコミュニケーション手段への解像度の高さが見事な作品でした。

エピソード単位では、Sign.1「雪の世界」、Sign.5「こたえ」、Sign.6「ずっと見ていたいって思ってた」、Sign.10「桜志の世界」、Sign.12「私たちの世界」辺りは特に素晴らしかったです。 1話と最終話のタイトルからも、本作ではその人視点の世界というのが重要になっていることがわかります。 雪と逸臣さんの物語は前半で一区切りつくのですが、そこから焦点の当たる人物が増えていき色々な視点、思いの表現が描かれていきます。 その中でも「桜志の世界」と題した Sign.10 は重要で、「この感情、どこにもカテゴライズなんてして欲しくなかった」はすごく良い台詞でした。

本作では、デフォルメ表現も印象的でした。 どちらかと言うと等身の高い、リアル寄りな画風の作品なのですが、時折織り交ぜられるデフォルメ表現が効果的に作用していました。 一歩間違えるとわざとらしかったり、シリアスな空気を壊してしまいそうなものだけど、作品の空気に馴染んで暖かな雰囲気を作り出すのに貢献していたと思います。

Xアカウント上で公開され、BD特典にもなっている『ゆびさきぷち』でも、幕間の物語がデフォルメ表現で描かれていました。 本編に字幕版があるのはもちろん、こちらでもほぼ全てのエピソードで会話が文字表現されているところもポイントですね。

OP、EDも非常に良かったです。 特にEDの「またひとつ私の知らない君に出会う」「もうこれ以上好きになるなんてどうしよう!」からの「またひとつ私の知らない私に出会う」が見事。 何かを好きになることで、知らなかった新たな自分に出会い、自分の世界が広がって行く。 これは自分もよく感じるし、この作品を観て心を動かしている自分もまた、新たな自分だなぁと思いました。

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ひろがるスカイ!プリキュア

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2023年冬から2024年冬にかけて放送した、プリキュアシリーズ20作目。 プリキュアシリーズは近年の数作を観たのみですが、その中でも特に良かったと思えた作品でした。

あえて大きなテーマとして「ヒーロー」を選び、「空」や「ひるがる世界」も盛り込んだ本作。 主人公のソラという真っすぐで、強さと未熟さを持つヒーローを中心として、気持ちのいい作風が見所です。

ましろはソラの強さも未熟さも知りながら、ソラをヒーローと(ソラ自身がそれを信じられなくなっても)呼んでくれる存在。 エルちゃんは赤ちゃんだし、年相応の振る舞いも多く見せるのだけど、同時にみんなの姿を見て育っていく。 守られる存在だったましろがソラに対して思った「力になりたい」という気持ちを、エルちゃんもまたみんなに対して感じていた。 そんな風に、誰かを守ろうとする姿、気持ちが他の誰かへと広がっていき、それぞれが「ヒーロー」になっていく。 そんな過程がしっかり描かれた作品でした。

本作の描いた様々な意味での「広がり」については、以前書いたりもしました。 unitcircle.hatenablog.com

シンプルに変身バンクが良いのも素晴らしい。 プリキュアの個人的な見所の一つがここだと思っていて、望ましいのは数十回観ることになっても飽きることなく、観る度に新たな発見があるような変身シーン。 観た限りどの作品もよく出来ていると感じますが、ひろプリは特に音と映像の噛み合いが気持ちいい気がします。 確か1回しか流れないキュアノーブルの変身バンクも、巻き髪がクルクルするところが気持ちよく作られていました。

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治癒魔法の間違った使い方

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小説原作。 異世界に召喚された青年が、師から治癒魔法とその使い方を教わっていく物語。 作中の倫理感や話運び、シリアスとコメディのバランスなど、色んなところで安心感のある作品でした。

まず、『治癒魔法の間違った使い方』というタイトルの付け方が良い。 作品を通して、治癒という力をどう使うか、何のために使うか、何を成したいのかという話をずっとしていると感じました。 過去編のローズさんは、後悔しているという意味で「間違った使い方」をしていたのでしょう。 ローズの弟子であり教えを受けたウサトは、味方だけでなく敵も傷つけないために治癒の力を使う。 それは本来の使い方とは外れているものです*1が、だからこそ「誰も傷つけないこと」を強い意志で選び取ったのだと感じられる気がします。 戦場に立つという盛り上がり所に至るまでを丁寧に時間を掛けて描いたのはこの作品らしさを感じるし、その過程もずっと面白かったのがすごい。

ローズさんとウサトの師弟という関係も良かったです。 作中の倫理観がしっかりしている中で、ローズさんが一人スパルタ指導をしてくることに対しての批判の目もあり、彼女をそうまでさせる理由付けに自然と目が行く作りになっています。 また、師匠から弟子に教えるだけでなく、教えたことが師匠自身に返ってくる(言わば弟子に教えられる)シーンがいくつかあったのも良い。 師弟ってそういうものですよね。 フェルムが訓練に加わってからは、ウサトが兄弟子のように訓練をこなしたり日記をフェルムに渡したりして(ベタだけど)1クールでの成長を感じられました。

肉体の傷を治すことだけでなく、心の傷を癒すことだったり、治癒という行為の持つ暖かさや優しさについても描かれていたのも良かったです。

「勇者のついで」で異世界に飛ばされたところから始まったのに対し、自らのやるべきことを定めて知らない世界へ足を踏み出すラスト、なんですね。

ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する

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婚約破棄された公爵令嬢リーシェが、6度異なる人生を送り、7度目にして元敵国の皇太子アルノルトと婚約したことから始まる物語。

本作で印象的だったのは、主人公リーシェの多様な経験、広い興味、何より未来を変えようという強い意志でした。 リーシェの最大の強みは、6度の人生の経験そのものよりも、身をもって感じたが故に人の可能性の広がりをまっすぐに信じられることだと思います。 過去の人生全てで早くに死に至っている彼女ですが、死の後悔よりも楽しかった思い出を強く印象に残しているのも、らしさですね。 一方のアルノルト殿下は、どこか自分の生き方を定めていたり、諦めのような感情を持っていそう。 そんな殿下に世界の広さや異なる視点、自身の前に存在する選択肢に気付いてもらうことがリーシェの願いであり、目標となっていくのでしょう。

多くの人生を過ごしているリーシェですが初々しい面があったりするのも、二人の間のパワーバランスとしてちょうど良かったです。 「直接触らない」という約束の所々での使い方もなかなか良かった。 最終話「いちばん美しいもの」で、殿下の瞳と、同じ色をした指輪が同じ画面に収まる構図も印象的でしたね。

細居美恵子さんのOP/EDイラストや、EDイントロを本編と重ねていく演出なんかも好きでした。

悪役令嬢レベル99~私は裏ボスですが魔王ではありません~

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乙女ゲームの世界に悪役令嬢ユミエラ・ドルクネスとして転生した主人公が、レベル上げしすぎてレベル99に達してしまった後のあれやこれやを描く物語。 主人公は単にレベルを上げ過ぎてしまっただけでなく「レベル上げ自体が好き」という特殊な嗜好を持っていることがポイントで、中盤からそこがよりピックアップされていったのが良かったです。 ユミエラ側に立ちつつ常識的な視点を持つパトリックの登場も大きく、ユミエラ嬢が止められても魔物を呼ぶ笛を吹いてしまうパートで、成ったな……と感じました。

ユミエラは強さとしては到達してしまっているため、恋愛であったり、ユミエラのために強くなろうとするパトリックをもう一つの軸とするのも良い判断。 ユミエラがパトリックと共にいるシーンはどれも良いですが、一番を挙げるならやはり11話の例の場面でしょう。 どんなに頑張っても強さとしてはつり合いの取れない、(文字通り)レベルの違う二人。 お互いの気持ちをわかった上で、そんな壁を乗り越えるための儀式としての「じゃんけん」が非常に良かった。

OPで歩いていくユミエラにパトリックとエレノーラ嬢がついていくところも結構好きですが、本作でより印象的なのはED曲「好きがレベチ」。 レベルという題材を扱うアニメで、ものすごく好きな気持ちを「好きがレベチ」という一言で表すのも良いし、曲の盛り上がりでそれを発するのも素晴らしい。 「生まれ変われたとしても」のパートは歌い方も好きだし、ゲーム中と今とで(ある意味生まれ変わっても)エレノーラ嬢が同じ人を好きになっているのも結構好き。 映像の良さ、イントロの良さ、二人のテンションの差の面白さなど、見所の多いEDですね。

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余談ですが、2番ではユミエラ嬢による「好きがレベチ」も聴くことができます。 二人で歌っているのでそれはそうという感じですが、初めて聴いたときはなかなかインパクトがありました。

SYNDUALITY Noir

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2023年夏に1クール目、2024年冬に2クール目が放送したオリジナルロボットアニメ。人であるドリフターとヒューマノイドであるメイガスの関係を描く物語。

10年ほど前と比べるとオリジナルの2クール作品はだいぶ減ってしまいましたが、そんな頃を思い出すお手本のような2クールアニメでした。 1クール目は、ドリフターとメイガスの色々な付き合い方だったり、(俗っぽさも含めた)ドリフターの生活感、たくましさが描かれていたように感じます。 一方で2クール目に入ると、存在が不確かだった「楽園」を巡って物語は核心に迫っていき、目線は空へ向かい、地を駆けていたクレイドルコフィン(採掘・戦闘用ロボ)も空を飛ぶようになっていきます。 面白さとしては2クール目で加速していくものの、1クール目で描いたドリフターとメイガスの関係(人の良き隣人)、ドリフターのたくましさも大きな意味を持っているところが良いですね。

印象的なエピソードの1つが2期1話、アメイジア崩壊から眠っていたミステルと共に今の世界を回って行くところ。 過去のマスターや過去の世界に比べ現代は~と嘆くミステルに、現代の人々は自分たちなりに生きてるんだよと伝えるとともに視聴者にも思い出してもらう、良いエピソードでした。 この頃のミステルと同様、今の世界がどうあるかを直接見ずに過去の理想を追い求めているのがヴァイスハイトだと考えると、この辺は対比になっている気もします。

自分の足で今を(現実を)生きることがドリフターの生き方である一方で、主人公カナタは幼少期から、存在も不確かな楽園を夢見ていました。 現実が大変な状況でも、夢を見続けられる、それがカナタが本作の主人公である所以なのかもしれません。 エリーがかつてカナタの夢を笑ってしまったことを後悔していたというエピソードも良く、またカナタ理解度が高いおかげで後半色々活躍してたのも良かったです。

自分が何者かわからなかったノワールが、手にしたカメラで見た世界を記録していく、というのも良い。 生まれた理由なんていうものは本当はどうでもよくて、ただ歩いてきた道のりが自分を形作るんですよね。 ノワールがここまで撮ってきた写真というのは視聴者が観た2クールの思い出でもあり、やっぱり2クールという積み重ねは強いなとも感じます。 最終話のサブタイの前半、「My name is... Noir」も良い。

そしておそらく本作を語るのに欠かせない存在が、シエルでしょう。 最終話ヴァイスハイトの回想で描かれた、シエルの子守歌とそれに心動かされるヴァイスハイト。 歌は言葉とはまた異なる、思いを伝えるための手段です。 彼女が何度でも歌を好きになったという事実と、ヴァイスハイトが彼女をリセットしたくなった理由を感じる、素晴らしい回想でした。 www.youtube.com

どんな夢を見よう 君と同じ夢を 絡まってる 本当の声を知りたくて

もし果てしない夜に 迷ったときはそっと 名前を呼んで いつでも傍にいるよ

Daydreamの歌い出し、静かさとか暖かさが良すぎる……

メタリックルージュ

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ネアンと呼ばれる人造人間のいる世界で、ネアンである主人公ルジュ・レッドスターとバディのナオミ・オルトマンが、人に紛れた9人のネアン「インモータルナイン」と戦う物語。

一番印象的だったのは、OPやED、劇伴など楽曲面です。 どれも雰囲気があって、本作のカッコよさや不穏さをしっかりと感じさせてくれました。 中でもEDの作り出す空気感は素晴らしい。 二人が地に足を付けて歩く道には終わりがあり、その先は道がない空間なんですよね。

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お話としては自由意志の話、生まれや家族の話が中心。 ルジュがナオミとの関係を「最高の他人」と呼んだ場面が印象的で、二人を言い表した言葉としてだいぶしっくり来ました。 命じられたことや生まれによって決まった定めもあれば、自分の意志だと思い込んでいるだけで実は誰かに縛られているものもあるかもしれない。 そんな中でもルジュが信じられたのは、同じ時を楽しく(楽しいことばかりではなく)過ごした他人だったんですね。 実年齢まだ10歳のルジュは迷う場面も多いですが、ナオミを信じるという決断は誰でもない彼女自身のものなのでしょう。 ルジュの肩に、ナオミの声で喋る小鳥が乗るという落とし方も完璧でした。

ルジュが後から現れた妹シアンが本当の姉妹になろうとするのも良かった。 家族だったり決められた関係というのは否定されるだけのものではなく、自ら選び取ることもできるものなんですね。

シルヴィアがネアンの自由を獲得するため戦うことを他者に強要してくる人物ですが、強要とは相手の自由を尊重してない行為であり(オチも含め)皮肉だな、と思ったりも。 一方で、舞台で踊らされているとしても面白ければいい、なジャロンがある意味で心は一番自由なのも良い。 全体の構造や用語をある程度理解した上でもう一回要所を見返してみると、初見時より全然情報が頭に入ってくるタイプの作品でしたね。

*1:タイトル回収シーンでもある