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TVアニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』の描いた「広がり」の話

先日、プリキュアシリーズ20作目のTVアニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』が完結しました。 本作の題材は「空」「ヒーロー」そして「広がり」。 それらの要素が、上手く組み合わさっていたように感じた作品でした。 今回は、その中でも「広がり」を中心に本作全体について語っていこうと思います。

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では、本作の描いた「広がり」について、順に語って行きましょう。

広がる世界

本作の大きな特徴の一つは、主人公のソラやツバサが異世界スカイランド)の住人であること。 ソラやツバサは、この世界(ソラシド市)にしかないものや、文化、常識について知っていくのです。 またその逆に、ましろやあげはもスカイランドに行くことで、異世界の文化を知ることになります。 これらは文字通りの、世界を広げていく体験ですね。

異世界への知識に限らず、色々なことを知っていくこともまた、自分の世界を広げることに繋がります。 第21話「ひろがれ!知識の翼」では、ヨヨさんが「気になることを調べ始めると、また新しく気になるものが見つかるの」「知りたいという気持ちは、繋がって広がっていくものだと、私は思うわ」と語っています。 もし学んだことがすぐ役に立たなかったとしても、学ぶことで確実に自分の世界は広がっていて、それが自分の助けになることもあると、描かれていました。

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新しいことにチャレンジすることも、自分の世界、可能性を広げることに繋がります。 メインキャラクターはみな、新しいことにチャレンジしていきます。 特にまだ幼いエルちゃんは、日々が学びであり、チャレンジです。 立とうとすること、喋ろうとすること、それを一つ一つクリアしていくことが、彼女自身の世界を広げて行きます。 また、物語当初は自分のやりたいことが定まっていなかったましろも、いくつものチャレンジをしています。 自分が特にやりたいことがなく普通だと悩んでいたましろですが、彼女も世界を広げていき、絵本を描くという自分のやりたいことを見つけていきます。

ソラが海に挑戦する第30話「ひろがる海!ビーチパラダイス!」も印象的な回でした。 世界の7割が海であることは、彼女にとっては驚きの事実。 必死に泳ごうとしてもうまくいきませんが、楽しもうと考え直したことで、海の綺麗さに気付きます。 プリキュアでの戦闘をきっかけに泳げ方を掴んだソラ。 夕方になると、空と海が繋がったような、綺麗な景色が広がっていました。 ソラ(空)の世界が海へと広がったように感じる、エピソードの締め方でしたね。

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広がる思い

『ひろがるスカイ!プリキュア』の一つの原点は、ある人に助けてもらい、ソラがヒーローを志したこと。 誰かを助けたいという思いと行動は、別の誰かにも伝わっていきます。 ソラがプリキュアとして誰かを助け、戦う姿を見て、ましろもまた、力になりたいとプリキュアになります。 そんなソラやましろたちの姿を見て、エルちゃんも、共に戦いたいと思うようになります。 本作では戦うこと(ヒーローとなること)に限らず、誰かの思いが別の誰かに広がって行くことを描いています。

思いが伝わることを描いた印象的なエピソードが、体育祭でリレーをする第17話「わたせ最高のバトン!ましろ本気のリレー」 (詳しい感想は年間10選記事 を参照)。 ソラの「前だけを見て走る」というアドバイスが、ましろを立ち上がらせる原動力になり、諦めずに立ち上がったましろの姿が、ソラが最後まで駆け抜けるための原動力になる。 そうやって思いは伝わって、周り回って行くのです。 そんな、『ひろがるスカイ!プリキュア』を象徴するような回でした。

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過去の自分から今の自分に思いを伝えるものとしては、ソラのヒーロー手帳があります。 ソラは、ヒーローとなるために絶対に守るべきと思ったことを、ヒーロー手帳に記録しています。 過去のソラが残した誓いは、今、そして未来の自分へと広がっていきます。 挫けそうになったとき、ヒーロー手帳に書いたことを思い出すことで、それを支えに彼女は立ち上がるのです。

ましろが選んだ絵本作家という夢も、そのきっかけはエルちゃんに思いを伝えたかったからでした。 第20話「ましろの夢 最初の一歩」は、ましろが初めて絵本を描くエピソード。 おもちゃを独占してしまったエルちゃんに対し、分け合って遊ぶ楽しさを知って欲しかったましろ。 ブランコを分け合い、輪が広がるお話を描き、エルちゃんや誰かに届くような絵本を描いて行きたいと思うようになるのでした。

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最終話でも、ましろは本作の物語を絵本として残し、広げて行こうとしていました。 誰かを直接救うことで広がる思いもあれば、それを物語として受け取ることで伝わるものもある。 本作自体も物語であるため、それを受け取った我々にも、作り手の込めた思いの一部が広がって行くかもしれません。

広がらないものと、信じられるもの

「広がること」を描いた本作。 対照的に、敵サイドは広がりを持たず、「力こそすべて」という思想のもと、一人ずつ襲い掛かってきます。 個体としての価値だけを重視し、力以外には目を向けない。 その極地が今作のラスボス*1でした。 ラスボスは、自ら(すなわち力)だけを信じ、他者を信じません。 そして「力がすべてではない」「平和もいいものかもしれない」という考えが広がって行くのを、阻止しようとしたのでした。

作中で投げかけられる、「力がすべてではないとしたら、何を信じればいいのか?」という問い。 それに対するソラの答えが「友達」でした。 迷ったとき、どこに進めばいいかわからなくなったとき、支えてくれるのは大切な誰か。 それもまた、一種の広がりでしょう。

かつてスカイランドを守った一人の戦士も、孤独でした。 たった一人では、全てを背負わざるを得ません。 だからこそ彼女の使命を(思いを)受け継いだプリキュアは、仲間と大変なことも分け合えるよう、一人ではなく五人だった。 作中でもそう語られていました。

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「立ち止まるな、ヒーローガール」

作中で何度か繰り返された、この台詞。 足を止め、そこに留まってしまうことは、可能性を閉ざし、広がりを持たないことを意味する行為です。 立ち止まらず、走り続け、僅かでも可能性を広げようと諦めない者こそ、ヒーロー。

そして、この台詞が投げかけられることこそ、一人で戦っているのではなく、激励をくれる(過去の自分を含めた)誰かと共に戦っていることの証。 これまで語ってきたように、色々な角度から「広がり」を描いているように感じる、そんな作品でした。

*1:一応伏せておきます