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話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

こんにちは。

2023年TVアニメの中で特に良かったエピソードを10話選びました。 その話の核心まで踏み込んで語っている場面が多いので、ネタバレ注意です。

本記事は、aninado さんの「話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選」参加記事です。 ルールもこちらに引用します。

■「話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選」ルール

・2023年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。

・1作品につき上限1話。

・順位は付けない。

BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』第3話「CRYCHIC」

脚本:綾奈ゆにこ / 絵コンテ:柿本広大 / 演出:大森 大地、山之口 創 / CGディレクター:大森 大地、山之口 創

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BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』において、かつてのバンド「CRYCHIC」の結成から解散までが語られる第3話「CRYCHIC」。 話全体を通して高松燈の主観視点が多用されるのが大きな特徴です。 このエピソードに関しては、noteに色々なことを書いたので、詳しくはそちらを参照していただくと良いと思います。

note.com

愛音という視聴者目線のキャラクター視点で2話までに謎を撒き、燈を視点とした3話である程度回収する*1のが見事でした。 特にこの回で良いと思っている、終盤部分に関してだけ引用しておきましょう。涙で画面自体が滲む演出は7話でも使われていて、一人称視点ならではだと思いました。

しかし、そこから間髪入れずに、1話冒頭の解散シーンが燈の視点から再び描かれます。第三者視点で観た解散の場面を燈の視点から改めて観た視聴者は、当時とは大きく受け取り方が変わるという作りになっています。 最後の場面、「みんなみたいに涙するほど大事なものが欲しい」と思っていた燈が羽丘女子学園で見掛けた祥子に避けられたとき、画面全体が滲みます。「CRYCHIC」と、それを象徴とする存在である祥子こそが、燈にとって涙するほど大切なものだったのです。

重要なのは、この回は燈の視点であるため、結局なぜCRYCHICが解散したのか(なぜ祥子が辞めようとしたのか)がわからないまま終わるということです。どうすれば良かったのかわからず、初めて涙するほど大切と思えたものを失ってしまった燈の喪失感を、視聴者は燈の視点を通して体感することになる回でした。

筆者はこのエピソードが刺さりすぎたために、CRYCHIC復活に拘る長崎そよに(おそらく多くの視聴者よりもだいぶ)共感に近い感情を抱きながら本作を視聴していました。 一方で「MyGO!!!!!」が本格結成する頃には「MyGO!!!!!」もすごくいいね~と思えるようになっていて、とても楽しい視聴体験でしたね。

アイドルマスター シンデレラガールズ U149』第11話「大人と子供の違いって、なに?」

脚本: 村山沖 / 絵コンテ:小林敦 / 演出:小林敦 / 総作画監督:井川典恵 / 作画監督:井川典恵、栗原裕明、滝吾郎、岡崎滉、槙田路子、須川康太、矢永沙織、佐々木啓悟、高妻匠

cinderella-u149-anime.idolmaster-official.jp

アイドルマスター シンデレラガールズ U149』第11話「大人と子供の違いって、なに?」。 本作を通じて行われてきた「大人」と「子供」の対比を象徴するようなエピソードです。 作品の感想に良さを大体書いてしまったので、ここに引用します。

11話のキーとなっていたのは「大人と子供の違いは何か」、そして「大人は泣かない」を始めとする子供や大人に対する思い込みです。冒頭では、ユニット名「U149」を上から決められて*2「子供らしさ」で売っていけと言われるものの、簡単には了承できないプロデューサーの姿が描かれます。そして両親の面談を控えた橘ありすは、自分の思いを伝えられず、大雨の中で(彼女の中では大人らしくない行動として)心に涙を流します。普段家で鉢の中で泳ぐ金魚を見ていた彼女が、大雨でできた水面を金魚鉢の中で(まるで閉じ込められたかのように)漂う姿が印象的。挿入歌『in fact』も素晴らしく、既存の曲をこの場面で(敢えて2番を)使うことで少し異なる印象を持たせることに成功しているように思います。

プロデューサーが彼女を見つけた場所は、前回みんなで初めてライブを披露したステージでした。彼女は、「大人は現実を見るもの」だからと直接両親に心の内を聞く前から決めつけ、本当は自分のアイドル活動は歓迎されていないのではないかと感じ取ってしまっていました。そんな彼女は、大人らしくもなく目の前で泣くプロデューサーを見て驚きます。そして記憶を辿っていき、母が夢を追っていた姿や絵本を読み聞かせて涙ぐんでいた姿を思い出し、「大人は泣かない」なんてことはないと理解するのでした。大人たちが「子供とはこういうものだ」と押し付けて子供たち自体を見ようとしていなかったのと同様に、ありすもまた「大人とはこういうものだ」という像に縛られていたのですね。アイドルの仕事を通じて「仕事」と「夢を見ること」は別のものではないこと、そして仕事をする大人もまた夢見ることができ、そこに関して子供と大人に違いなどないと気付いたありす。夢見る彼女が名前の子供っぽさを気にしないことにしたのを見て、おそらくプロデューサーもU149というユニット名を受け入れたのではないでしょうか。本当の意味で家族のもとに帰ったことを表す、橘ありすの「ただいま」が良かったです。

既存曲「in fact」の2番を、両親にうまく甘えられない子供の心情として解釈するところが素晴らしかったですね。 「あなた」が誰を指しているかは元の歌詞では明示されていないからこそで、楽曲の解釈の自由度を感じました。

『ワールドダイスター』第十一場「私たちの約束」

脚本:中西やすひろ / 絵コンテ・演出:福井洋平

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『ワールドダイスター』で個人的に最も素晴らしいと感じていたのが、終盤の「オペラ座の怪人」編。 中でも本作が「二人の」物語であることを象徴したエピソード、第十一場「私たちの約束」を選出しました。

冒頭、ここなの地元に静香と二人で帰ってきた場面から始まります。 「いいのかな、オーディション明日なのに」と言うここなに、「必要なことだから」と階段を上りながら返す静香。 初めてワールドダイスターになりたいと思ったのはいつかと問われたここな。 (今と同じように)静香を瞳の中に写し「私、ワールドダイスターになる。なりたい!」と宣言する自分をぼんやりと思い返します。 正しく答えられないここなに対し「覚えてないとは思ってたけど」と言いながら階段を上り切る静香。

「これは、一人の少女が夢を叶えるための物語」。 静香は身振り手振りで、ここなの過去を演じて見せます。 絵本をめくっているように見せたり、引っ越しを受け入れる幼いここなを演じる静香が印象的。 引っ越しで気軽に舞台を観に行けなくなったここなは、光の差す、舞台のような場所を見つけます。 そこで毎日演じているもののやっぱり孤独で、そんな中彼女のセンスが発動し、静香と出会います。 この時はここなが階段の途中に座り込んでいて、静香が後から来る、逆の配置ですね。 センスは通常舞台で発動するものだと考えると、この時の静香がこの場所(ここなにとっての舞台)でしか会えない友達だったのも納得です。

やりたい役がいつも被り、その度に静香に譲っていたここな。 「自分の気持ちに嘘付いてたら、いい演技なんかできないよ」。 静香はここなのセンスで、ここなの舞台に必要だった相手役で、自信を失ったここなの気持ちの拠り所。 ここなの中にあった、自分が舞台で演じたいというエゴを受け止めていたのも、静香でした。 舞台に立てない静香は(舞台に立てないファントムのように)抱えていたこの気持ちをここなに返そうとします。 静香が預かっていたここなの気持ちを返すことで、ここなは自分の気持ちを受け止め(自分の気持ちに嘘をつかず)今よりいい演技をすることができるはず。 「これは、ここなが夢を叶える物語」だから、静香は自ら舞台を降りるのでした。

シリウスに帰り、ファントム役のオーディションに参加するここな。 クリスティーヌに仮面を剥がされ、醜い素顔を晒した心情を吐露する場面。 人ではなくセンスから生まれ、舞台に立てない静香を取り込んだことで、その心情を感じて演じていることは間違いありません。 それと同時に、仮面の下が暴かれたように、優しい少女ここなの下に元々あった(そして静香に暴かれた)自分が舞台に立ちたいというエゴが演技に表れているように思います *3。 赤と青の二色の目がここなと静香であることは言うまでもないでしょう。

目を瞑ることで、内なる(幼き頃の)自分にワールドダイスターになりたいと思った理由を聞き、約束を思い出すここな。 かつてここなは、静香に夢が叶うと自分を信じさせるために、夢見る少女を演じていたのです。 演劇とは、架空の物語が現実に起こり得るかもしれないと観客を信じさせる行為。 まさにOP『ワナビスタ!』の「信じさせてあげる 素敵なStoryを」ですね。

ここなからワールドダイスターにならないのかと問われ「私の分までここながなるの」と寂しそうに笑う静香。 それを見たここなはワールドダイスターになることを決意し、宣言します。 そして、いつか一緒に舞台に立とう、という約束を交わしていたのでした。 ここは本エピソードの冒頭でここなが思い出しかけていた場面です。 静香はここなのこれまでを振り返って演じる際に、この約束について語りませんでした。 きっと、ここながこの「いつか一緒に舞台に立とう」という約束を思い出してしまったら、静香が消えることに未練を残してしまう。 そう静香は考え、ここなのためを思って、約束について語らずに去ったのだと思います。

ワールドダイスターになりたいという夢は一人では挫けてしまいそうだからと、静香と交わした約束。 静香がいなくなった今でも、二人の約束はきっと残っている。 ここなは約束を叶えるため、また静香と会うために、オペラ座の怪人を成功させようと動き出します。 ここながシリウスの面々に頼み込みに行った屋上の遥か高い空には、月(静香)が見守っているのでした。

ここなの、誰よりも自分が舞台に立ちたいという強い気持ちを受け取りつつも舞台には立てなかった静香。 そして、ここなのためを思って約束のことを語らなかった静香。 その思いを全て受け止め、ここなは舞台の成功と、再び静香に会うために走り出す、そんな素晴らしいエピソードでした。

『AYAKA』第10話「一緒に行ってやるからさ」

脚本:来楽 零(GoRA) / 絵コンテ:青柳 宏宣 / 演出:石栗 和弥

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『AYAKA』からは、沙川尽義の視点で描かれる第10話「一緒に行ってやるからさ」を選出。

好きなように生きているように見えた尽義が、亡くなった八凪師匠の代わりに幸人に命を懸けた術を掛けることを決めていたとわかる本エピソード。 その決意に至るまでの「誰かがやらなくちゃならない」「自分は身寄りがなく育ててもらった恩もある」という理由付けや、 その時までは好きなことしかせず、太く短く生きようとする彼らしさが印象的。 本当は命を懸けることからは逃げてしまいたいという気持ちを持ちつつも、そうやって自分が逃げないように、この世に未練が残らないように、誰にも期待されないように生きていた尽義。

本土に幸人を迎えに行く役目を引き受ける尽義は、柄にもなく緊張し、酒を飲んでそれを紛らわせます。 10年振りに再会した幸人は、尽義の目から見ると最初こそしみったれた顔をしているようにも感じたものの、 付き合っていく内に(夏祭り回で笑っている顔を見て)こいつのためなら死んでも、と思えるようになり。 一方で、時々期待したような目を向けてくる幸人自身が、残らないようにしたはずの彼の未練の一部になっていたのでした。 そして、幸人から、水の龍の力を取り戻したいという言葉を聞いた尽義が「お前がそんな風に言ってくれて嬉しい」と本心で答えるところも良いですね(島と幸人のことが大好きなのもまた本当だから)。

また、尽義が幸人の腕を握って飛ぶ、サブタイトルの「一緒に行ってやるからさ」の場面も印象的。 振り返ると、尽義が幸人の秘密を知ったのは、幸人が尽義の指を握ったとき、水の力が溢れたことからでした。 幸人が成長するまで守ってやれ、と師匠に命じられた場面では、疲れて寝ている幸人の手を尽義が握ると、無意識に幸人も少し握り返してきて、そんな様子を見て、尽義は笑いながら幸人の手をしっかりと握っていました。 10年前の島の事件の日、言われた通り尽義は幸人の手を引き彼を助けます。 そして、最後に命脈で幸人を引っ張り上げた尽義は、泡となって消えてしまいます。 師匠の言葉を守り、大事なところではしっかりと幸人の手を握った尽義は、立派に手を引き道を示す、幸人の師匠でした。

尽義の幼い頃の決意と、幸人になら命を懸けてもいいという思いと、未練をなくしたつもりでも生きたいと思ってしまう人間らしさが、尽義の視点をメインに置いたことで魅力的に描かれたエピソード。 第11話の「幸人、飛んでみろ!」も、これまでのパターン通り尽義の言葉かと思いきや、尽義の思いを継いだ幸人が自分に向かって叫ぶ言葉なのも非常に好きです。

『SHY』第10話「寂しい氷と小さな火」

脚本:中西やすひろ / 絵コンテ:谷口工作 、山崎秀樹 / 演出:谷口工作、井之川慎太郎

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人の心を主題としたヒーロー物語『SHY』からは、第10話「寂しい氷と小さな火」 。主人公「シャイ」と共に戦うヒーロー「スピリッツ」(本名:ぺぺシャ)の幼い頃と姿の似た、敵組織の少女「ツィベタ」。 その正体は、蘇ったスピリッツの母、レターナ。彼女の心は、外の世界の過酷さ、冷たさに凍り付いていたのでした。

レターナの心を表すように、回想シーンの外の黒い部分では、冷たく白い雪が降り注ぎ続けます。 身体を暖めることすら叶わない寒い部屋の中で、二人の母娘を唯一照らすのは、小さなロウソクの灯りだけ。 僅かな食事に手をつけようとしない娘ペペシャを、自身の余裕の無さから叱ってしまったレターナ。 しかし娘の行動は母レターナを想うが故のものであり、レターナは「私がいるとこの娘が幸せになれない」と思ってしまいます。 この場面の、彼女自身も、ロウソクの灯りも外から黒く塗りつぶしていく表現が、彼女の中に生まれた黒い感情を表しているようで印象的です。

最後においしいケーキを食べさせたいというレターナの思い、店員の善意さえ、外の世界の悪意によって壊されてしまいます。 レターナは、子供たちが冷たい外の世界を知らずに生きていけることを願ってしまうのでした。

娘は自分を憎んでいるだろうと語るレターナに、自分の思いを伝えようとするも、心が折れ、変身が解けてしまうペペシャ。 そうして氷に包まれた二人の間に立つのは、炎を纏ったヒーロー、シャイ。 シャイが登場する瞬間にロウソクが灯る映像が見えるところ。 ペペシャがシャイを、母娘を照らした小さなロウソクの火のように、弱弱しくも明日を夢見るには十分なほど強くて暖かな光と評するところ。 そしてレターナの凍えた心を灯すと宣言したシャイの目に灯った炎。 サブタイトル通りの「寂しい氷と小さな火」。 からのアイキャッチがとても印象的ですね。

シャイは自らの炎で氷を溶かしながら、ペペシャはレターナから愛を受け取ったから今ここにいるんだと語ります。 ペペシャの脳裏に浮かぶ、レターナとの間に位置する街頭が光輝く構図。 ツィベタ(レターナ)とシャイの衝突でが生じ、ペペシャはを操るヒーロー「スピリッツ」へと変身し、ツィベタ(レターナ)への親子喧嘩を挑むのでした。

シャイのヒーローとしての小さな灯りのような背中がスピリッツの心にも火を灯す、『SHY』という作品を表したような名エピソードだったと思います。

アイドルマスター ミリオンライブ!』第2話「夢のとびらはオーディション」

脚本:加藤陽一 / 絵コンテ:新井陽平 蔦 佳穂里 / 演出:山村 聡

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アイドルマスター ミリオンライブ!』は劇場で4話ずつ先行上映が行われた作品でした。 章ごとに見ると特に第3章が一番区切りよく、繰り返し観たい内容になっていました。しかし今回選ぶのは第2話「夢のとびらはオーディション」。 どうなるかなと思いなら劇場へ行き、第1話でかなりやれるんじゃないか?と感じた思いを、核心に変えてくれたエピソードです。

765PRO ALLSTARSのライブを観てアイドルを目指すことを決意した春日未来と最上静香の二人は、オーディションに向けて練習を始めます。 急いで待ち合わせ場所に来た未来ですが、静香は楽曲をイヤホンで聴きながらも先日の父との出来事を考えていて、未来の声が耳に入りません。 考え込むと周りが見えにくくなる、静香の性格表現ですね。

練習を重ね、オーディション本番に臨む二人。 人数が足りないということで、スカウトされ年も近い伊吹翼が一緒に踊ることになります。 練習をしていないのに、動画を観ただけでなんとなくやれてしまう翼に、焦る静香。

本番直前、固くなる静香に、未来は声を掛けます。 しかしステージに立つと、照らされる光はあまりに眩しくて。 オーディションが始まると、振りが合っていなかったり、声が固かったり、「上手くいっていない」ということが絶妙に表現されています(こちらまで緊張してくるくらいに)。 父に掛けられた言葉は重く、やっぱりアイドルにはなれないのか、と少しでも思ってしまったその時、ステージに立つ前に未来に言われた言葉を思い出します。 「大丈夫だよ、静香ちゃんなら絶対アイドルになれるよ!だって私がもう、静香ちゃんのファンなんだもん!」。 アイドルとは、形式的には事務所に入ってデビューするものですが、最終的に求められるのは「誰かに憧れられる存在」になること。 人に(未来に)憧れられるだけの歌声を静香は持っているのだから、絶対にアイドルになれる。 そう感じた未来は、翼と共に静香の背中を押します。 押し出されて一歩を踏み出した静香は歌い出します。

私は私でしかない 可能性でしかない 世界に一つだけの音を持つ希望

自分は自分であり、自分の歌声は世界に一つだけ。 歌いながら思い出した静香は、堂々と笑顔で歌い上げるのでした。

合格した二人は翼と共に写真を撮り、それがそのまま合格者写真の一覧に使われる場面も非常に良かったです。

『ひろがるスカイ!プリキュア』第17話「わたせ最高のバトン!ましろ本気のリレー」

脚本:井上美緒 / 演出:畑野森生 / 作画監督:増田誠治 / 美術:戸杉奈津子

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まだ続いている作品ですが、『ひろがるスカイ!プリキュア』からは第17話「わたせ最高のバトン!ましろ本気のリレー」を選出。 余談ですが、リンク先のあらすじ紹介が丁寧な口調になっていて、児童書っぽくて良いですね。

体育祭のリレー選手に推薦されたソラにバトンを渡すランナーとして、指名されてしまったましろ。 走ることが得意ではないましろは迷ったものの、ニッコリと笑うソラを見て、引き受けることにします。

体育祭に向けてソラ、ツバサに特訓をしてもらうましろ。 ソラからのアドバイスは「前だけを見て走ること」。 ツバサはそれはそうですよね、という反応ですが、意外と難しいんですよ!と主張するソラ。

体育祭本番の場面では、ましろの緊張を解そうとする、ソラのスキンシップが良いですね。 どうしてそんなに元気でいられるのかをましろに聞かれたソラは、「信じてますから、ましろさんが最高のバトンを渡してくれるって」と答えます。

リレー本番、順調に走り出したように見えたましろでしたが、途中で転んでしまいます。 倒れたましろは諦めずに立ち上がり「前だけを見て走ること」というソラの言葉を思い出しながら走ります。 その姿を見てハッとしたソラは、ましろからバトンを受け取り逆転して首位で走り抜けます。 その様子を見届けたましろは一瞬喜んだ表情を見せましたが、力が抜けて座り込んでしまいます。 近くに来て話しかけてくれるソラに対し、ましろは背を向けて水道の方へ走ってしまうのでした。

日陰に位置する水道で顔を洗うましろと、追いかけてきて日のあたる場所からましろを気遣うソラ。 ちゃんと走れると思ったのに、転んでしまって悔しがるましろ。 ソラは、ましろを推薦した理由が、勝つためだけでなく、友達と一緒に走りたかったからでもあることを打ち明けます。 だから、ましろが転んだ時、一瞬諦めてしまったと。 それでもましろはソラの言葉を思い出し「ただ前だけを見て」走っていた。 それを見て何が何でも一位にならなくては、ましろのその走りが、ソラにとっての最高のバトンになったのでした。 ソラはヒーローを目指していて身体能力も高いけれど、友達と走りたいという素直な感情を持っていたり、転んだましろを見て一瞬諦めてしまったりと、年相応に思える部分もあるところが良いキャラクターです。

その後のプリキュアとしての戦闘でも、大きいのに素早い敵に対し、プリズムはエネルギー弾をスカイに託すという形で、思いのバトンの受け渡しをしているのが良いですね。

思っていたより負けず嫌いで、思っていたより走るのが好きな、新しい自分に出会うことができたましろ。 昔はよく走っていたというあげはの話もあったので、忘れていた自分の一面を思い出した、とも言えるかも。 『ひろがるスカイ!プリキュア』序盤において、ましろはまだ自分の夢が何かわからないという立ち位置のキャラクターです。 ましろもエルちゃんと同じく、自分の中に色々な可能性を持ち、色んなチャレンジをしてその可能性を知っていく。 「チャレンジして良かったわね、ましろさん」に「うん!」と答えられているのが素晴らしいですね。

『転生王女と天才令嬢の魔法革命』第5話「魔薬と魔剣の魔竜討伐」

脚本:王雀孫 / 絵コンテ:玉木慎吾 / 演出:玉木慎吾 / 総作画監督井出直美、松本麻友子、石川雅一 / 作画監督:八幡佑樹、Mubon Hyeong Jun、Ryu Joong Hyeon、Jeon Hyun Jin

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『転生王女と天才令嬢の魔法革命』に関しては、作品全体への感想も既に書きましたが、選んだ回はアニスフィアにとっての「魔法使い」が語られる第5話「魔薬と魔剣の魔竜討伐」

魔物の群れやドラゴンの出現の報を受け、箒で二人で現地に向かうアニスフィアとユフィリア。 事態を深刻に受け止め話題を振るユフィリアに対し、アニスフィアは楽観的で二人の話は噛み合いません。

出発前の会話を思い出すユフィリア。 階段の途中、光の差す場所で、魔法使いになるという願いを叶えるために、危険とわかっても魔石を求めると語るアニスフィア。 ユフィリアからすると、アニスフィアの考えは(その立ち位置と同じように)遠く感じます。 だから、アニスフィアがどこか遠くへ行ってしまわないようにと、アニスフィアに掴まっている手をギュッと握り直すのでした。

戦場に駆け付け、魔物との戦いを始めるアニスフィアたち。 魔薬で身体強化して戦うアニスフィアに対し、ユフィリアも魔法を用いて援護します。 アニスフィアは、「本物の魔法」を使うユフィリアの姿や、その後出現したドラゴンに目を輝かせます。 「あんな生き物がいるなんて、世界はいつだって素晴らしい!」 そう語るアニスフィアにとっての「世界」とは、彼女が保持する(我々のいる)現世の知識の常識を超えた、彼女が暮らす世界(そして我々から見た異世界のことなのでしょう。

一人でドラゴンに挑むアニスフィアですが、ドラゴンの前に落下してしまいます。 彼女は箒に手を伸ばすものの、その手は届かない。 そんな、落ちていく彼女を抱きとめたのは、ユフィリアでした。

なぜアニスフィアは戦うのか。 アニスフィアは、いつだって誰かのために戦うのが魔法使いだから、そうしなければ二度と魔法使いを名乗れなくなるから、と答えます。 アニスフィアの思いを理解できないユフィリアですが、そんな思いを、アニスフィア自身を守りたいという気持ちを伝えます。 「あなたの魔法を理解したいのです!」とは、アニスフィアが語る魔法使いの使う魔法、すなわち思いそのものでしょう。 「どうか一人で行かないで」、アニスフィアが遠くへ行ってしまい、もう二度と帰ってこなくなることを恐れるユフィリアの正直な気持ちでした。 そんな正直な気持ちに、アニスフィアも自らユフィリアを誘うことで応えます。

ドラゴンの翼を断ち切り地に落とした二人。 「不可能くらい可能にして見せないと、魔法使いを名乗れない」。 魔法使いとは、アニスフィアにとっての常識を、不可能を超えた存在。 ドラゴンを倒すといつの間にか夜が明けており、横たわるドラゴンの上には、日が昇っていたのでした。

戦いは終わり、戦勝会の最中。 雰囲気が苦手だと抜け出したアニスフィアの元に、ユフィリアがやってきます。 婚約破棄された時、連れ出してくれたことに礼を言うユフィリア。 アニスフィアがユフィリアを強引に連れ出したことで始まった二人の関係が、今では一人で飛んで行こうとするアニスフィアに対してユフィリアが目を離さず付いていく関係になっているのが興味深いですね。 夜空の元で、二人だけの舞踏会が行われるのでした。

『川越ボーイズ・シング』第9話「いつかのアイムソーリー」

脚本:川越学園文芸部 / 絵コンテ・演出・作画監督:武内宣之

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『川越ボーイズ・シング』で最も印象的だったのは、第9話「いつかのアイムソーリー」

基本的にギャグ調で進みつつ、気付いたらいい感じに締まっている(若干の強引さもあるけどそこも味な)本作。 しかしこのエピソードは、冒頭からいつもと違う、シリアスな雰囲気を漂わせています。

第8話で(完全にギャグ風だった)強盗事件の実況は実はITくんの父親であり、ITくんは夜逃げすることになります。 みんなへ渡すつもりか、雨の中川越プリンを買って学校の前に立ち尽くすITくん。

一方、響先生は学園長からハンカチを買えるだけ買ってくるよう頼まれます。 響先生の持っているのは、ボロボロのハンカチ一枚だけ。 いつもスイーツを買いに行かされている響先生がスイーツを買わず、その代わりなのかITくんがスイーツを買うのは、この回がいつもと違う部分の一つでしょう。

ハンカチを買った響先生はITくんを見つけ、いつもの鈍感さ(強引さ)で部室まで連れて行きます。 川越プリンを渡そうとするITくんですが、何よりまず練習と、みんなで歌うことに。 歌っている最中、口元はあまり映されず、目元だけだったり、様々な景色が映され、(省エネという目的もあるでしょうが)やはり異質な雰囲気を感じます。 今日は練習を切り上げる、という話でしたが、今日が最後とわかっているITくんはもっとみんなと歌いたくて、もう少し練習したい、と申し出ます。

夜逃げの準備をしてまさに出かける直前、ITくんが落ちた歌詞を拾うと、川越プリンを届けに先生たちがやってきます。 響先生は今後も部活を続ける前提でアドバイスするのですが、ITくんは引っ越すことを告げます。 「楽譜は一つ一つの音符で構成されていて、彼はその大事な一つなんです。無くなったら困ります」と、あくまで音楽の視点から引っ越しを止めようとする響先生。 仕方ない、と言う父親に、ITくんが大きな声で叫ぶのが印象的。

車で出発したITくんと父親ですが、(彼が重宝していた謎のロボ)ポッパーくんからビデオ通話が掛かってきます。 最初に映ったのは教室の黒板。 響先生が買った10枚のハンカチに9人の生徒と飯島先生がメッセージを書き、響先生は自分のボロボロのハンカチに「ITって何の略?」と書いているのが、泣けるような笑えるような場面です。 そして何を歌うかでグダグダしつつ、ITくんの作った曲の2番を即興で歌うことになります。

友情は Forever 会いたいよ そういつまでも思いは消えない

クワイア部のみんなとは離れていく中で、今この瞬間、離れていてもみんなと合唱ができている。 それを実現したのが、ずっとITくんと過ごしてきた相棒のポッパーくんなのも素晴らしいですね。 元はと言えば父親のせいなのだけど、涙ぐんでわかったようなことを言う父親に、今はついていくしかない。 現実のままならなさと、それでもいつか、という希望を感じさせる、名エピソードでした。

『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』第13話「追憶 Resign」

脚本:Hypergryph、水月 秋 / コンテ:西川 将貴 / 演出:西川 将貴 / 作画監督:村上 貴哉、清水 海都、守重 蛍、川崎 美穂、小木曽 遥、須佐 祥智、立野 杏奈、小暮 梨奈、G CHANNNEL、松本 裕一

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Yostarが運営するスマートフォン向けゲームアプリ『アークナイツ』のアニメ化第2期。 ロドスや龍門の視点から敵組織レユニオンと抗争を繰り広げるシンプルな構図だった第1期と比較すると、第2期の特徴はよりレユニオン側の事情も描かれていくこと。 そんなレユニオン視点を代表するのが第13話「追憶 Resign」です。

冒頭、二人の少年が理想について語り合います。 一方の少年、イーノが一番したいことは歌を歌うこと。 サーシャは、理想を問われ、答えようとして目を覚まします。 彼の今の名はファウスト。 そして父親から虐待を受けていた少年イーノは、メフィストと名を変え、物に当たり、周囲に当たり散らすようになっていました。 自覚なく、彼が父親にそうされていたように

そんな中、メフィストのアーツで操られていたレユニオン兵達が暴走し始めます。 仮面がポトリと地面に落ちて素顔が少し見える様子は、これまでどこか無機質で人間を感じなかった兵たちにも命があり、一人の人間であることを感じさせるかのよう。 そんなメフィストに怒って飛び出していくファウスト。 不気味な黒装束の連中が現れ、より複雑化していく戦場。

アーツで仲間を助けて回るファウストは、ロドスのオペレーター、グレースロートと出会います。 ファウストは他の感染者とは違うと感じてすぐには撃たなかったグレースロートと、そんなグレースロートを撃たないファウストファウストは「殺して、殺されて、そこからは抜け出せない。お前も、俺も」と言ってその場を去ります。

戻ってメフィストを拘束して運び出すよう指示するファウスト。 アーミヤは、犠牲になった素顔のレユニオン兵に「どうか安らかに」と(死者の見開いた目を閉ざす代わりの行為として)優しく仮面を被せます。

自ら時間を稼ごうとするファウストに対し、かつての名「サーシャ」と呼びかけるメフィストファウストもまた「イーノ」と呼び、かつて聞かれた自分の理想は、イーノが笑って生きることだと答えます。 殺す殺されるのループから自分は抜け出せないとしても、せめてイーノ/メフィストだけは抜け出して欲しいというのがファウスト/サーシャの願いだったのでした。 ファウストのアーツが輝きを放ち、劇伴が盛り上がり、アーツの発動の瞬間、その光と音の両方がファウストたちの姿と共に消え去ります

ファウストは回想で、イーノが感染者となり、力を得た一方で歌を歌えなくなった(理想を失った)ことを思い出します。 OP「ACHE in PULSE」の「嗚呼、声も奪われるのなら もう何もかも Lost all meaning」とは、歌声を失ったイーノのことでもあったのかもしれません。 無数の矢が静かにゆっくりとファウストに降り注ぐ時、最後に彼は微笑み、引き金から指を離したようにも見えます。 死に至る直前の一瞬だけは、殺す殺されるから逃れ、真にサーシャに戻ることができたのかもしれません。そして、特殊ED。

原作ゲームはあまり追えていないので調べて知ったのですが、引き金から指を放すファウストはゲーム版PVにも描かれていたんですね。 youtu.be

感想

こうして見ると(『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』第3話をはじめとする)視点が切り替わり、新たな事実が開示されるようなエピソードが好みなのかもしれません。 小説だったり、群像劇が好きだったりするのもそれと関連しそう。 自分や他人の選出を見て、そういった傾向を探ってみるのは面白そうですね。

また、話数単位で選んでみることで、アニメの1話とは単体で完結した性質を持つと同時に全体の一部としての性質も持っていて、その二面性が面白いなとも思いました。 アニメ全体を語ろうとすると観点が多すぎて難しいこともあるけれど、話ならその話の軸いくつかに絞られるからまだやりやすい、みたいなことも感じましたね*4

*1:初回3話一挙放送にしっかり意味がある

*2:自己言及的

*3:この二つは元々同じものだから切り離せない、と言う方が適切かも

*4:実際作品の感想を書こうと思っても印象的な話を取り上げてそれについて語りがち