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2023年上半期良かった小説

こんにちは。

2023年上半期に読んで良かった小説について、おおむね気に入っている順で並べました(特に出版日に制限なし)。今回は試しに出版社リンクと(あれば)動画を載せてみることに。

死亡遊戯で飯を食う。

デスゲームへの参加を日常とする少女を描いた作品。現在3巻まで発売しており、コミカライズも連載中。2巻まで読んだ時点の感想ですが、自分としてはかなり肌に合っていると感じる作品でした。

本作では1つの巻で複数のデスゲームが描かれ、時系列もバラバラ。登場人物も各回でほとんど一新されます。またゲームにも種類があり、少人数制の脱出型ゲームでは、罠を警戒しつつゆっくりと進んで行く、じりじりとした緊張感があります。一方多人数のチーム戦では、広い地形と人数を活かした集団戦が繰り広げられていきます。

本作の大きな特徴は、本来非日常的なものであるデスゲームの日常感です。主人公の幽鬼は、タイトルにもある通りデスゲームの賞金で生活しており、デスゲームに参加し続けています。幽鬼にとってのデスゲームは、人生一発逆転の大勝負のような非日常ではなく、得意というだけで漠然と参加している、日常の存在なのです。なぜ自分がデスゲームに参加している意味を問い直すことが、1巻のテーマでもあります。

デスゲームというと残酷そうなイメージがありますが、本作は防腐処理という設定でそれを表面上緩和しています。参加者にはある種の肉体改造が施されており、負傷しても流血は起こらず、また切断された部位も多くの場合治療可能とされているのです。本作では通常ならグロテスクに思えるシーンもあっさりと、淡々と落ち着いて描かれています。死も部位欠損も、デスゲームにおいては当たり前、日常的なもの。むしろ、身体の一部を手札と割り切って使えるかが、生死を分ける要因にもなります。死を必要以上に大きく扱わないという意味では『魔法少女育成計画』や『〔少女庭国〕』と近いところがあるかもしれません。

ライトノベルといえばイラストも魅力の一つ。本作のデスゲームは見世物でもあるので、運営から毎回異なるコスプレ衣装が配布されるという設定があります。口絵には、イラスト担当のねこめたる氏により、衣装に身を包んだ各ゲームの主要人物達が描かれています。ただ、衣装に関しても文章の上では必要以上に拘った描写はなく淡々としており、この作品らしさを感じますね。

今後も続きが出そうな雰囲気です。興味があればぜひ。

mfbunkoj.jp

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

桜庭一樹氏による作品。印象に残るタイトルですが、しっかり内容とも結びついているところがいいですね。作中では、砂糖菓子とは言わば腹の足しにもならない、生きる上で必要のないことを指します。砂糖菓子の弾丸とは、生きて行くために必要な実弾の対となる言葉なのです。

本作は冒頭で結末を察することができるタイプの物語で、その分やるせなさや、ここでこうしておけば良かったのではないかという後悔を抱きながら読み進める体験になります。それでも結末は変えられず、それはこの世界の定めを変えられないのと同じことで。

手放しにオススメできるかは迷うところもありますが、読めば何かを感じるでしょうとは言える、そんな作品でした。

www.kadokawa.co.jp

 

SSSS.DYNAZENON CHRONICLE

TVアニメ『SSSS.DYNAZENON』のノベライズ作品。劇場総集編やアニメ本編を観返してダイナゼノンのモチベーションが上がっていたので、読んでみました。『SSSS.GRIDMAN』のノベライズの『SSSS.GRIDMAN NOVELIZATIONS』の方は既に読んでいて、内容としては良いものの2巻ある分若干冗長には感じていました。一方で本作は1巻で完結していて比較的テンポも良く、満足度も高かったです。よもゆめも……あります。

本編を補完する外伝に求められることは色々とあります。「本編に存在する(まだ掘り下げる余地のある)要素を掘り下げること」「単体で完結し、本編に組み込んでも違和感のない話とすること」「本編をより魅力的に感じさせること」など。本作はこれにかなり応えているのではないかと感じました。特に、あるキャラクターへの掘り下げはダイナゼノンという作品自体においても重要な意味を持つように思います。劇場版『グリッドマン ユニバース』を観る前に読んだのですが、そちらとの関連性も面白いですね。

www.shogakukan.co.jp

 

黄色い花の紅

最近ではTVアニメ『リコリス・リコイル』のストーリー原案を務めたアサウラ氏のデビュー作。銃の所持が認められた現代日本を舞台とした、少女と銃の物語。

無力な守られている少女が、銃という力を手にすることを決め、自分を変えて行こうとする、王道でまとまった良い作品でした。守りたい側、守られる側の関係性も描かれているのですが、両方の視点に立つ構成で、よりお互いの想いを理解しやすくなっています。導入の仕方やアクション要素は映画的な感じもしますね。

銃関連の描写が細かいというのも特徴の一つです。正直なところ自分もあまり知識がなかったのですが、単に知識が得られるだけでなく、主人公と同じ視点に立ち、こういった世界があり自分はここに足を踏み入れるのだなと感じられる要素になっていたように思いました。

www.shueisha.co.jp